ソウルの近代的な高層ビル群や、海沿いのリゾート地とは一線を画す、韓国の「精神文化の首都」と呼ばれる場所があります。
連載第4回目にご紹介するのは、朝鮮王朝時代の高貴な両班(ヤンバン:貴族階級)の文化と、素朴な民衆のエネルギーが今も色濃く残る街、安東(アンドン)です。
一歩足を踏み入れると、数百年変わらない美しい藁葺き・瓦葺きの家屋が並び、伝統的な仮面劇の太鼓の音が響く――。まるで韓国の時代劇の世界にそのまま迷い込んだかのような、極上のノスタルジーと出会える歴史の街へご案内します。
安東ってどんな街?(人口&規模感)
安東(アンドン)は、韓国の南東部「慶尚北道(キョンサンプット)」の中央に位置する、歴史と儒教(じゅきょう)文化の精神が深く根付いた都市です。
人口: 約15.3万人(2026年現在)
規模感・アクセス:
ソウルの「清涼里(チョンリャンリ)駅」から、次世代高速列車「KTX-イウム」に乗れば、乗り換えなしで約2時間で安東駅に到着します。
歴史的な見どころが広大な自然の中に点在しているため、ゆったりとした時間の流れる、落ち着いた佇まいの地方都市です。
時を忘れる美しさ。安東の「絶対に外せない」世界遺産&名所
安東の最大の見どころは、歴史が「展示物」としてではなく、今も「人々の生活」として息づいている点にあります。
1. 安東河回村(アンドンハフェマウル) 〜ユネスコ世界文化遺産・生きた歴史の教科書〜
洛東江(ナクトンガン)という川が、大きなS字を描いて村をぐるりと囲むように流れることから「河回(ハフェ)」と名付けられた、美しい伝統集落です。
ここには、豊臣秀吉の文禄・慶長の役の際に活躍した西厓・柳成龍(リュ・ソンリョン)の末裔をはじめ、現在も多くの住民が約180棟もの伝統家屋で実際に生活を営んでいます。村を囲む美しい砂浜や松林、そしてどこか懐かしい土塀の路地を歩いているだけで、日常の喧騒がスッと消えていくのを感じられます。
2. 芙蓉台(プヨンデ) 〜村を一望する、息をのむ絶壁の特等席〜
河回村の対岸にそびえ立つ、高さ約64メートルの壮大な崖です。小さな渡し舟で川を渡り、少し坂道を登って山頂に立つと、目の前には「S字の川に抱かれた河回村の全景」が、まるで一枚の絵画のように広がります。このパノラマ絶景は、安東旅行のハイライトとなること間違いなしです。
3. 晩休亭(マニュジョン) 〜人気ドラマ『ミスター・サンシャイン』のあの名シーンの舞台〜
深い森の中に佇む、朝鮮王朝時代の風情ある東屋(あずまや)です。渓谷に架かる一本の孤高な丸木橋が印象的で、大ヒットドラマ『ミスター・サンシャイン』で「一緒にやりましょう、ラブ(Love)」という名セリフが生まれたロケ地として、国内外から多くの若者が「人生ショット(最高の1枚)」を撮るために訪れる、最旬のフォトスポットです。
4. 月映橋(ウォリョンギョ) 〜夜空に浮かぶ、美しく切ない愛の架け橋〜
長さ387メートルを誇る、韓国で最も長い木造の人道橋です。この橋には、若くして亡くなった夫のために、妻が自分の髪の毛を編んで作った麻草鞋(みそわらじ)をモチーフにしたという、切なくも美しい愛の物語が秘められています。夜になるとライトアップされ、夜霧とともに水面に光が滲む幻想的な夜景はデートスポットとしても大人気です。
体感する伝統:躍動する「安東河回仮面劇」
安東を訪れたら絶対に外せないのが、国指定重要無形文化財であり、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている「河回別神グッ仮面劇(ハフェピョルシングッタルノリ)」です。
おどけた表情の木彫りの仮面をつけた踊り手たちが、コミカルかつエネルギッシュに、当時の貴族(両班)の虚飾を風刺し、民衆の哀歓をユーモアたっぷりに表現します。韓国語が分からなくても、その独特な動きと太鼓のビート、観客を巻き込む熱量だけで大爆笑し、元気をもらえる至高の伝統芸能です(河回村の特設舞台で定期公演が行われています)。
グルメの街・安東!胃袋を掴まれる特産品&名物
安東は、韓国の食通たちが「ここに行くためだけに旅をする価値がある」と太鼓判を押す、独自の料理文化を持っています。
安東は、韓国の食通たちが「ここに行くためだけに旅をする価値がある」と太鼓判を押す、独自の料理文化を持っています。
| グルメ・名物 | 特徴とおすすめの食べ方 |
| 安東チムダック(안동찜닭) | 安東の旧市場(グシジャン)にある「チムダック通り」が本場。ぶつ切りの鶏肉、ジャガイモ、キャベツ、そしてたっぷりの韓国春雨(タンミョン)を、醤油ベースのピリ辛ダレで豪快に煮込んだ大皿料理です。甘辛いタレが染みた春雨は絶品で、ご飯が進みすぎる美味しさ! |
| 安東塩サバ(アンドンカンゴドゥンア) | 内陸に位置する安東へ魚を運ぶため、昔の人が腐敗を防ぐために塩を振ったことから生まれた伝統グルメ。脂の乗ったサバの旨味が塩によって極限まで凝縮されており、炭火でパリッと焼かれたサバは、これぞ白米の最強の相棒です。 |
| 安東焼酎(アンドンソジュ) | お酒好きなら絶対に試したい、45度(!)の伝統純米焼酎。すっきりとしたキレと、お米本来の高貴な香りが特徴で、かつては薬用としても珍重された名酒です。 |
おわりに:時が止まった「本物の韓国」に会いに行こう
きらびやかなトレンドが移り変わる現代の韓国において、安東はまるで「大切な宝物」をそっと仕舞い込んでおいたかのような、変わらない美しさを持った街です。
世界遺産の村で風の音を聴き、伝統の仮面劇に笑い、大皿のチムダックをみんなでつつく――。そんな、韓国人の心の奥底にある「情(ジョン)」や伝統の温もりに触れる旅へ、次の週末に出かけてみませんか?
次回、シリーズ第5回は、どこかノスタルジックな近代建築の街並みと、海がもたらす最高の5大シーフードグルメに溺れる南西部の美しい港町、「木浦(モッポ)」を大特集します。お楽しみに!

